図書情報室

出世と恋愛 ―近代文学で読む男と女―

出世と恋愛 ―近代文学で読む男と女―

100/サ

斎藤美奈子/著

講談社

「青春」「恋愛」「出世」近代文学において定番のテーマだ。本書では近代文学における時代背景、著者や登場人物の心情を俯瞰して考察し、当時の思想、価値観がどのように現代に生きる我々につながるのかを丁寧に著述している。明治期の主人公は青年(男性)ばかりであったが、昭和初期には若い女性が主人公の物語も登場しており、年代が進むにつれて恋愛や結婚に縛られない新しい「生きる価値」を見出してゆく。近代文学で描かれた男女の生き方を読み解くことにより、現代日本で「出世と恋愛」にかける人々の思いを知ることができる。著者の軽快な語り口も非常に魅力的な1冊だ。

<共働き・共育て>世代の本音 新しいキャリア観が社会を変える

<共働き・共育て>世代の本音 新しいキャリア観が社会を変える

51/ホ

本道敦子・山谷真名・和田みゆき/著

光文社

ミレニアル世代と呼ばれる1980~2000年前後生まれの人の多くは、女性は出産後もキャリアを継続したい、男性は積極的に子育てしたいと考えているという。しかし、両立制度は整っているのに、組織風土や社員のマインドが停滞し、活用されていないのが日本の現状であると著者は述べる。本書では「共働き」のみならず、夫婦がチームとなって子育てする「共育て」を志向するミレニアル世代へのインタビュー調査から、夫婦それぞれがキャリアを形成するための考え方や工夫が事例として紹介されている。本音で語られたそれらの事例は、両立に悩む夫婦だけでなく、企業の経営陣や人事担当者も多くのヒントを得られるだろう。

ポストイクメンの男性育児

ポストイクメンの男性育児

64/ヒ

平野翔大/著

中央公論新社

男性も育児をするのが当たり前になりつつあり、法制度も整ってきている。しかし育児をしやすい環境ではないのが、日本の男性育児の現状である。日本では、推進ばかりで「支援」の視点が欠けていると著者はいう。育児支援は、女性に偏っている。男性への支援が進まない最大の要因は、父親が「支援をする人」として扱われていることにある。収入の柱という父親への社会的要請は、強くあるべき親像を多くの父親に暗に押し付けている。本書では、著者が産婦人科医及び産業医としての経験から父親の悩みの原因を辿り、今後望まれる社会体制について提言している。男性育児の見えにくい問題点に気づける1冊である。

ジェンダー・クライム

ジェンダー・クライム

101/テ

天童荒太/著

文藝春秋

「性にまつわる犯罪(=ジェンダー・クライム)」は「魂の殺人」であるとも言われる。被害者当人だけでなく、その家族、そして加害者とその家族をも大きく巻き込み、日常を一変させる。
同時に気付かされるのは、性犯罪がいかに「日常の積み重ね」から生まれるかということだ。日々の生活の中で〈当たり前〉として受け入れていた、男女間の不平等や役割の押しつけ、差別の延長に性犯罪がある。その意味では、私たち一人ひとりがジェンダー・クライムの土壌を支えている当事者であるともいえる。
読者のジェンダー観をくすぶる小説である。

抵抗への参加 フェミニストのケアの倫理

抵抗への参加 フェミニストのケアの倫理

05ギ

キャロル・ギリガン/著 小西真理子・田中壮泰・小田切建太郎/訳

晃洋書房

フェミニズムに新たな視点をもたらし「ケアの倫理」の原点とされる名著『もうひとつの声で』の出版から40年が経つ。本書は『もうひとつの声で』出版後、称賛の一方で本意ではない解釈の数々と格闘してきた著者が、自身の半生や研究を語り、“ジェンダー化された正義とケアの論争”に応答したものだ。
ケアの倫理とは、私たちが相互依存の中で生きているという前提に基づいた関係的な倫理のことであり、共感し、他者のこころを読み、協働し、相互理解を促す人間の能力だ。それらの能力は人の成熟を示す重要な指標となりえる。しかし、それらを女性らしさと結びつけ、能力の価値が低く見積もられる家父長制社会の中で、人はその能力を喪失するのだとギリガンは訴える。
人は人間関係の中でケアにより生かされている。ケアの倫理の理想である「誰ひとり、取り残されたり傷つけられたりしない」未来のために、私たちは何を考えるのだろうか。

それでも女をやっていく

それでも女をやっていく

102/ヒ

ひらりさ/著

ワニブックス

本書は、これまでライターとして無数の女性の人生を聞かせてもらってきた著者が、初めて、自分自身とジェンダーとセクシュアリティをめぐる葛藤に向き合うエッセイ集だ。
女らしさへの抵抗、外見コンプレックス、セクハラ・パワハラに耐えた経験、恋愛のこじらせ、様々な自分自身の「正しくなさ」に向き合い、捨てたいけれど捨てきれない自分をさらけだしながらも、フェミニズムと出会い一歩を踏み出しはじめたこと等が綴られている。そして「女をやっていく/女をやっていかない」にかかわらず、自分の人生を取るに足らないものだと思ったり、正しくないものだと恐れたりしながらも、開き直って自分の人生を肯定してほしいと読者にエールを送っている。