図書情報室

「ありのまま」の身体 —メディアが描く私の見た目—

「ありのまま」の身体 —メディアが描く私の見た目—

05/フ

藤嶋陽子/著

青土社

おしゃれを楽しむことや美容に励むことが推奨される風潮は、メディアの広告戦略やSNS等が影響している。本書は美の規範が進化する現代で“ありのままの身体”を肯定することの難しさを丁寧に分析している。見た目による重圧や偏見は、ボディポジティブ等のムーブメントによる画一的ではない美しさが示された現状でも変わらず、ありのままを愛そうという前向きなメッセージに潜む自己責任論に警鐘をならす考察は、見た目をめぐる葛藤を抱えている人の多様な悩みに寄り添ってくれている。ルッキズムという言葉に包含される問題は根深く、簡単には解決できないが、脱ぎ捨てられない身体を持つ私たちの見た目をめぐる希望と痛みは地続きである、と気づかせてくれる一冊である。

地方女子たちの選択

地方女子たちの選択

05/ウ

上野千鶴子、山内マリコ/著

桂書房

地方から「若年女性」が減っていることが社会問題となってから10年、未だ解決はしないままだ。女性が減ると産まれる子どもの数が減るというが、それは「数」でしか見られていないからではないか。そもそも女性だけの問題なのか。
本書では、地方都市のひとつ富山で世代も環境も違う14人の女性たちが自身のライフストーリーを語る中で、地方都市での“生きづらさ〟や「女だから」と苦しんだり諦めたりしたことが多々みえてくる。著者同士の対談では、ライフストーリーを読み解き、女性を「数」から「生身の人間」へと解像度を上げていく。また、人口減少は、女性の問題ではなく社会の構造的な問題であり、社会に課せられた課題である。女性たちには自信をもっていろんな世界を見て、色んな選択肢の中から自分なりに納得のいく選択をしてほしいと語る。

働きたいのに働けない私たち

働きたいのに働けない私たち

57/チ

チェ・ソンウン/著

世界思想社

本書に描かれている韓国女性の労働環境は、日本女性の状況によく似ている。長時間労働が当たり前の職場において、男性たちと同じように長時間労働を求められながら、子育てや家事も母親の責任として求められているような点である。
韓国の子持ち高学歴女性は労働市場から退場していく。なぜ韓国女性は高学歴であっても労働市場を離れることになるのか。
スウェーデンやアメリカの労働福祉政策との比較から、広い視点で何が韓国社会に必要か、個人の問題ではなく、社会の問題として、韓国の労働市場の歴史を踏まえながら確かめていく。
巻末には、日本の女性に向けた著者からの補論、専門家による日本の高学歴女性の現状についての解説もあり、日韓双方の女性の労働状況についても考察できる。

あなたのフェミはどこから?

あなたのフェミはどこから?

05/ア

安達茉莉子ほか/著

平凡社

文筆家、写真家、彫刻家、翻訳家、編集者、ライター、演出家、イラストレーター、学者、ソーシャルワーカー、精神科医など19名の著者が自身のフェミニズムはどこからきたのかについて、自らの半生に向き合ったエッセイ集。ベル・フックスの『フェミニズムはみんなのもの』を通じてフェミニズムを知り、しばしば感じていた生きづらさが解けていった著者も多い。どの読者もエッセイの中で自分自身を重ねる瞬間がきっとあるはずだ。多様な視点の中で共感したり、同感したり、時には違和感を覚えながら、自分もフェミニストであること、それが間違いではなかったことに気づくだろう。フェミニズムに出会い、繋がり、受け取り、そしてまた渡していく。そんな感覚を味わえる一冊だ。

女の顔をした中世 ベルギー・オランダの都市と女性たち

女の顔をした中世 ベルギー・オランダの都市と女性たち

04/オ

J.ハーメルス、A.バルディン、C.ドゥラメイユール/編 青谷秀紀/訳

八坂書房

中世=「暗く、女性にとって閉ざされた時代」というイメージを持っている人は多いことだろう。本書は13世紀~15世紀中期までのネーデルラント諸都市に住まう女性たちの生涯や営みを裁判資料等の史料から読み解く。女性自ら調停を申し出て権利を主張した記録も多く、他の地域に比べ教育や経済活動への参加機会に恵まれていたことがうかがえる。商人・職人・娼婦など、彼女たちの職業や身分は様々だが、信仰を軸とした互助会であるベギンの存在は重要だ。半聖半俗の女性達は教育・看護・紡績を生業とし、私有財産を所有できた。「聞き書き」のように再現された生き様からは、中世の女性は決して受動的ではなく、自らの人生を切り開いていたことが実感される。固定観念を覆し、歴史の奥行きを教えてくれる一冊だ。

職場で使えるジェンダー・ハラスメント対策ブック アンコンシャス・バイアスに斬り込む戦略的研修プログラム

職場で使えるジェンダー・ハラスメント対策ブック アンコンシャス・バイアスに斬り込む戦略的研修プログラム

58/コ

小林淳子/著

現代書館

ジェンダー・ハラスメントは、「男女」という2つの性で人間を二分し、それに紐づけられた特性によって、他人のあり方を決めつけることなので、物事を理解する指標を多く持っていれば、これを抑止できると著者は言う。本書ではジェンダー・ハラスメントの実態を明らかにして、防止する研修効果を分析し、日本での研修をめぐる問題点と課題に対し、いかに戦略的に対策を行うかを解説している。特に原因の1つであるアンコンシャス・バイアス「無意識の思い込み」は、気づかずに持っている偏見であり、自身ではなかなか制御できない。だからこそ、誰もがアンコンシャス・バイアスを持っていることを前提に、社会の制度を点検し構築していくことが重要である。