図書情報室

塀の中のおばあさん 女性刑務所、刑罰とケアの狭間で

塀の中のおばあさん 女性刑務所、刑罰とケアの狭間で

91/イ

猪熊律子/著

株式会社KADOKAWA

喜劇王、チャールズ・チャップリンは「監獄を見れば、その国の国民性がわかる」と言った。
日本では65歳以上の高齢女性受刑者の割合が30余年で10倍に激増した。刑務所の外の「一般社会」に居場所がなく、望んで繰り返し刑務所に入るために犯罪を犯す者も多く、「負の回転扉」と称されるという。
本書では、受刑者や刑務官へのインタビューなどから、「負の回転扉」にはまる原因や背景を考え、それをなくすための社会の在り方を探る。

女性達の声は、ヒットチャートの外に

女性達の声は、ヒットチャートの外に

15/ヒ

平井莉生/著 

ソウ・スウィート・パブリッシング

Billboard Japan 2022チャートTOP100の中に、女性アーティストは27組のみ。なぜこんなに少ないのか?
本書は、その答えを探るべく音楽・エンタメ業界の女性達30名にインタビューを行い、何を思い、どういうスタンスで活動してきたのか率直な声を並べることで、2022~23年における業界の景色や感覚を浮き彫りにしている。
チャートはまさに“社会を映す鑑”。そこにジェンダーギャップがあることが怖い。経済的支援をする側の選択が、機会の不平等を生むなら変えるべきである。また、アーティストが性自認を公表しているわけでもないのに、性別二元論が前提になっているのも、時代遅れだと著者は指摘する。
インタビューした女性達の発言内容にもジェンダーの課題が見えてきた。音楽・エンタメ業界だけではない、この社会に通じる著者の言葉をもとに、ジェンダーギャップの解消を考えていきたい。

これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話 イノベーションとジェンダー

これまでの経済で無視されてきた数々のアイデアの話 イノベーションとジェンダー

67/キ

カトリーン・キラス=マルサル/著 

河出書房新社

本書では、経済が今までいかに男性優位の価値やルールに支配されてきたか、また女性のニーズが無視されてきたかを解説している。
例えば「重いスーツケースは男性が持つもの」「動かすのが難しいガソリン車は男が運転するもの」といった固定概念が、キャスター付きスーツケースや電気自動車の発展を遅らせたことなどを例に挙げ、ジェンダー観が発明やイノベーションの足枷となってきたと著者は語る。
ジェンダーを切り口にしているが、本書はまた同時に、私たちの周りに潜むアンコンシャスバイアスに気づくきっかけにもなるだろう。

魔法少女はなぜ世界を救えなかったのか?

魔法少女はなぜ世界を救えなかったのか?

05/ペ

ペク・ソルフィ、ホン・スミン/著 渡辺麻土香/訳

晶文社

私の魔法少女の一番古い記憶はサリーちゃんとアッコちゃんだ。子どもと観た「おジャ魔女どれみ」や「プリキュア」シリーズも懐かしい。
さて、思い出はともかく、不思議な力を持って戦う少女から、視聴者の女の子たちは何を受け取ってきただろう。華麗に敵を倒し、友人を助け、世界の平和を守る。そんな大仕事を、自分と同じような女の子がやってのけている。自分にもできるかもという身近さや、生きる自信かもしれないし、キラキラのかわいい衣装を見せられて女性性を上書きされたかもしれない。この二面性、かなり複雑だ。
さらに、そのキャラクターを作っているのは大人で、男性が大半で、そもそもビジネスの上で成立する存在であることを私たちは忘れがちだ。魔法少女、ディズニープリンセス、おもちゃ、ゲーム、アイドルなど、少女たちをターゲットにした数多のコンテンツが放つ相反するメッセージをどう受け取るか。本書はそのジレンマや問題点を洗い出す。

ジェンダー目線の広告観察

ジェンダー目線の広告観察

122/コ

小林美香/著

現代書館

街やネットに溢れる広告。それらに対して著者が始めたのが、広告をジェンダー視点で読み解く「広告観察日記」だ。
例えば女性向け脱毛広告は従来、「ムダ毛」への嫌悪感を煽り、脱毛へと駆り立てるメッセージが主流だった。しかし近年の「ルッキズム(外見で良し悪しを判断すること)」批判を経て、脱毛は“女性に力を与え、「自分らしさ」を高める手段である”とする広告が目立つようになったという。それらは一見“よい変化”に見える。しかし著者は問う。たとえ目的が「自分らしさ」の獲得へとすり替わったとしても、外見を重視し、それを磨く“能力”を高めることを迫るプレッシャーはなんら変わっていないのではないか、と。
広告の体をしてジェンダーにまみれる公共空間。しかし、決して受け身には終われない。それらをまなざすこと、読み解くこと、語ることこそが一つの抵抗なのだと、本書は教えてくれる。

フライガールズ 逆境を乗り越えた五人の女性パイロット

フライガールズ 逆境を乗り越えた五人の女性パイロット

04/オ

キース・オブライエン/著 小林政子/訳

国書刊行会

1920年代、男性パイロットに交じってスピードと距離を競う航空レースに挑んだ5人の女性パイロットが繰り広げる壮絶な事実の物語。
当時、女性は飛行に適さないという考えが一般的であったため、女性パイロット達は航空レースに挑むことによって、批判と嫌がらせの嵐に晒された。それでも、彼女達は、レースに出場し「女性は男性と同一の待遇を受けるべきだ」と訴え、行動し、闘い続けた。そして、遂にレースで優勝を手にする。この優勝を機に他の女性達の可能性も広がった。
男性社会の中で、女性が自己実現のために懸命に生きる姿は100年前とは思えず現代に通じるものがある。こんなにも闘い続けた女性達がいた事実にエネルギーをもらえる。